居住国の為替リスクを考慮した外貨の運用
海外に長く居住しており資産も居住国通貨で保有しているなら、為替リスクによる資産の変動を気にしないと、気づいたら資産が減っていたということになりかねません。
駐在員の方であれば、給与は日本円で日本でもらい数年後に帰国する人がほとんどかと思うので、そこまで気にする必要はないと思いますが、私のように現地で事業と長期居住をして現地から収入を得ているなら、米ドル・ユーロ・日本円などの主要通貨とのバランスを考慮する必要があります。
日本在住者でも日本円のみの資産であれば、円安による為替リスクがありますが、日本円は超長期的に見て円高傾向ですしインフレ率も低いので、他国通貨よりは心配ないのかなと思います。
- 2022年10月追記: 円安とインフレの影響により、日本円のみで資産を持つこともリスクとなってしまいました。今の時代は、他通貨も考慮した上で資産運用することが重要になってきています。
為替リスクとは
為替リスクとは、為替相場の変動で資産価値に損失がでるリスクのことです。
もちろん為替相場の変動で利益になることもありますが、損失とは対になっているため、合わせて為替リスクとなります。
為替リスクの影響を受けるのは、主に輸出企業や商社などです。トヨタは、1円の円高になる毎に400億円損失になるときもある程です。(2016年5月の決算時)
このような為替による損失を避けるために、輸出企業や商社などは「為替予約」というリスクヘッジを行っています。
為替予約
為替予約 – 大和投資信託
将来において外国通貨を購入するあるいは売却する価格(予約レート)、数量を現時点で契約する(予約する)取引をいいます。
個人資産で為替リスクを考える
トヨタのような巨大企業は、1円の円高で400億円という損失になるため、為替予約でリスクヘッジを行っていますが、個人でも1000万円以上の資産があるならリスクヘッジをした方が良いでしょう。
特に、私が居住するベトナムでは、対ドルで2017年から2018年の1年間で平均1.32%のドン安とベトナムドン安が続いています。(対日本円は、2.897%のドン安)
ベトナムは、為替相場管理を変動相場制ではなく、自国通貨の変動幅の範囲内で各国通貨が自由に取引される「管理フロート制」を採用しているので、大きく為替レートが乱高下することはありませんが、ベトナム中央銀行によって年々ベトナムドンは切り下げられています。
例えば、2017年に100,000 USD分のベトナムドンを保有していたなら、2018年には1.32%(1,320 USD)を年間で損してしまう計算です。ベトナム経済成長の背景からもドン高になることはほぼ無く年々ベトナムドン安が続いますから、何もしなければ自然と毎年資産が減っていくことになります。
インフレ率が高い国に居住している場合はインフレ率も考慮
インフレ率の高い国に居住しているのであれば、通貨安による資産減少の他に物価の上昇具合を指標とするインフレ率も考慮する必要があります。
為替のリスクヘッジにより個人資産を一定水準に保てても、居住している国のインフレ率が高ければ支出が増えてしまうからです。
ここベトナムでもインフレ率は、2017年 3.52%、2018年 3.8%で推移しています。単純にいえば、物価が毎年3%程上昇していることになります。
ベトナムは元々物価が安いので、日本と比べればそこまで資産に影響されるものではありませんが、毎年生活費は高くなってきています。
また、生活家電やブランド品などは関税の影響から日本よりも高額な商品が多いので、これらの商品を購入するときは生活費に大きく影響するでしょう。
ちなみに、ベトナムの大衆食であるフォーは、2015年15,000ドン(約75円)だったのに対し2018年は30,000ドン(約150円)になっています。
とは言っても、インフレ率3%は経済成長している新興国において適切であり、インフレ率10%以上の国に居住している方は、そもそもその国の通貨で資産をおいておかないでしょうから、そこまで気にしなくても良いのかなと思います。
- 先進国は、需要と供給のバランスが保てられるので、インフレ率は低下する傾向があります。
- 新興国は、供給よりも需要が大きいため、インフレ率は高くなる傾向があります。
- 一般的に、経済成長している国においてインフレ率は3%が適切と言われています。
*戦争や食糧不足等の世界的な危機がある際は、この限りではありません。
個人でリスクヘッジはどうすべきなのか
では、為替リスクやインフレ率に対処するために個人資産のリスクヘッジはどうすべきなのか?というと、やはり、居住国通貨以外の主要通貨(外貨)ベースで資産を持つということが基本となります。
ベトナムのように金利の高い国で定期預金にしておけば、為替リスク分の通貨安をある程度カバーできますが、金利は下がることもありますし年々通貨安が続いていることと、外貨に両替するのが難しい国ですから得策とは言えません。
個人資産のリスクヘッジ案
考えられる現実的なリスクヘッジ案としては、「外貨預金・外貨建て金融商品(保険含む)・外国為替取引」の3つでしょう。
- 外貨預金
- 外国為替取引
- 外貨建て債券などの金融商品へ投資
- その他
外貨預金
外貨預金は、海外在住者でも現地銀行や日本国内銀行(非居住者向けサービス)で手続きをすることができます。
外貨預金でリスクヘッジは、保有する通貨と同じ量を外貨で購入するやり方です。
日本円の現金資産の場合
例えば、日本円で100万円の現金資産があり、そのときの為替レートが1ドル120円だった場合は、100万円の半分の4,166ドルを購入して外貨預金し、あとの半分の50万円はそのまま日本円として持っておく方法です。
- 100万円 ÷ 2 = 50万円
- 50万円 ÷ 120円 = $4,166
- 米ドル $4,160
- 日本円 50万円
- 「米ドル 1」:「日本円 1」
「米ドル1」:「日本円1」の同比率で持っておくことで、円安になってもドル安になっても、為替リスクの影響を受けないことになります。
ベトナムドンの現金資産の場合
尚、ベトナムドンで200tr vnd(約100万円)の資産があり、その時のドル換算の為替レートが1ドル23,000ドンの場合は、200trの半分である4,348米ドルを購入して外貨預金し、あとの半分の100trはそのままベトナムドンで持っておきます。
- 200,000,000 vnd ÷ 2 = 100,000,000 vnd
- 100,000,000 vnd ÷ 23,000 vnd = $4,348
- 米ドル $4,348
- ベトナムドン 100,000,000 vnd
- 「米ドル 1」:「ベトナムドン 1」
こちらも、1対1の同比率で持っておくことにより、為替リスクの影響は受けません。
ただし、インフレの影響は受けてしまうので、ベトナムドンはインフレによって利率が変動する定期預金にしておきます。
ベトナムでは外貨規制が厳しい背景から、リスクヘッジとして換金のしやすい安全資産の金(ゴールド)を定期的に購入する文化がありますが、米ドルと金は基本的に逆相関ですので、完全なリスクヘッジとはいえません。
外国為替証拠金取引(FX)
外国為替証拠金取引(FX)は、個人でも少ない金額で簡単に通貨を取引することができる金融商品です。
外国為替証拠金取引を利用したリスクヘッジも基本的に外貨預金と同じ考えで、同等の通貨量を外貨で購入するやり方です。
外国為替証拠金取引(FX)の場合は、「通貨ペア」という2通貨1セットのペアを取引する仕組みです。
例えば「USDJPY」の通貨ペアを購入するのであれば、日本円で米ドルを購入していることになります。逆にUSDJPYを売るのであれば、米ドルを売って日本円を買う意味と同等です。
外貨預金の例と同じように、日本円で100万円の現金資産があり、そのときの為替レートが1ドル120円だった場合は、100万円の半分の4,166ドル分の注文をします。
- $4,166 ÷ 10,000通貨 = 0.41ロット(国内FX業者の場合)
- $4,166 ÷ 100,000通貨 = 0.04ロット(海外FX業者の場合)
- 米ドル $4,160
- 日本円 50万円
- 「米ドル 1」:「日本円 1」
*レバレッジ1倍
日本円50万円資産のリスクヘッジを米ドルでするには、上記のロット数でドル円を買い注文するというやり方です。
ドル円を買い注文することで、ドル高円安で日本円が安くなった分、米ドルで利益になるので、為替リスクは理論上なくなることになります。
外国為替証拠金取引(FX)を利用したリスクヘッジのデメリット
- レバレッジをかけてしまうと損失リスクが増す
- 金利差(スワップポイント)で損することがある
レバレッジは1倍が適切
当然、レバレッジをかけてしまうと損失リスクが増します。レバレッジ1倍で計算した数量を取引が適切です。
外国為替証拠金取引(FX)は、証拠金という資金を元にレバレッジ取引ができる仕組みです。
日本国内FX業者であれば最大レバレッジ25倍一律、海外FX業者は最大レバレッジ500倍以上のところもあり、上記の50万円分の米ドル購入も、日本国内FXなら2万円、海外FX業者なら1,000円以下の少ない資金で取引できてしまいます。
今回は、「為替リスクを考慮した外貨の運用(リスクヘッジ)」が目的ですから、レバレッジをかけてしまうと意味がなくなってしまいます。
金利差(スワップポイント)で損することもある
購入した通貨がマイナススワップポイントだと、そのマイナス分を毎日支払うことになってしまい、リスクヘッジになりません。
スワップポイントは、日々変動し各FX会社によっても若干異なるため、FX会社を利用するのであれば、購入通貨ペアのスワップポイントを事前に確認した方が良いです。
- 2022年10月追記: USDJPY通貨ペアの購入に関してはプラスなので問題ありません。逆にUSDJPYを売るとマイナススワップを支払うことになるので注意しましょう。
外貨建ての金融商品への投資
通貨を利用したリスクヘッジ以外では、外貨建ての金融商品への投資があります。
日本国内の証券会社では、様々な外貨建ての金融商品がありますが、海外居住者は日本国内の証券会社で投資することはできませんので、現地の証券会社かプライベート・バンキングを利用することになります。
リスクヘッジの基本的な考え方は、通貨を利用した方法と同じです。
100万円の現金があるなら、半分の50万円を外貨建て金融商品へ投資となります。
ただし、金融商品の種類によっては、指数・債券・保険・株・通貨など、細分化されている商品もあるので、現金で居住国通貨を保持していなくても金融商品の中でうまくポートフォリオを組めば、その中ですべてリスクヘッジが可能になります。
ポートフォリオの組み方次第で、リスクヘッジとともに利回りを出せることが外貨建て金融商品のメリットといえますし、逆に、下手なポートフォリオの組み方だと損をすることもデメリットといえます。
その他
その他、「外貨預金・FX・外貨建て金融商品」の3つ以外のリスクヘッジ方法としては、高級美術品や高級腕時計などがあります。
富裕層が高級美術品や高級腕時計を購入するのも、税金対策の他にリスクヘッジとしての目的があるためです。希少性の高いモノほど価値は落ちずに上がる傾向があるので、投資対象としても見ることができます。
ベトナムのように外貨両替や海外送金が難しい国の場合、高級腕時計を購入して身につけて出国すれば、あとで海外で売却して外貨を手にすることも可能といえば可能です。(空港検査の担当者次第で、運が悪ければ罰金になりますが…)
他に、不動産をリスクヘッジにと思った人もいるかもしれませんが、不動産は基本的に築年数と共に価値が目減りしていくものですし、地震や台風・竜巻などの自然災害の不確定要素もあるので含めていません。
もちろん、投資する国や状況によって異なるので、不動産でリスクヘッジをできるものもあるかとは思います。
居住国の為替リスクに対するリスクヘッジの考えは人それぞれ
居住国の為替リスクにどう対処するべきか?ということを解説しましたが、この考えは国によって違いますし人それぞれです。
「そんな為替リスクなんて個人資産で気にする必要ないよ」という人もいますし、「海外を転々とするから気にする」という人もいます。
しかし、どちらにしても資産や投資は必ずリスクが存在しますので、どれだけリスクを減らせるかというのは資産を守る上で重要な考えとなります。
為替ではありませんが、農産物を生産する農家は不作・豊作によって農作物の価格が大きく変動して損失になることもあるので、商品先物市場にてリスクヘッジをする農家もあります。
農家が種付をして収穫して販売するまで、商品先物で収穫時期の限月で売り注文をすることで、豊作により現物の価格が下落してしまっても、先物市場で利益がでているため、プラスマイナスゼロとなり現物の損失を相殺することができるのです。
このように、リスクヘッジに対する考え方は、農家から投資家まで一般的かつ基本的です。
特に、資産が1000万円以上あるような人は、一つの資産で保有することで損失リスクもあるので、リスクヘッジの考えは必要だと思います。
私自身、まだまだ分からないことも多いので、日々経験の中から学んでいる最中です。