居住国の為替リスクを考慮した外貨の運用
海外に長く居住しており資産も居住国通貨で保有しているなら、為替リスクによる資産の変動を気にしないと、気づいたら資産が減っていたということになりかねません。
駐在員の方であれば、給料は日本でもらう人がほとんどかと思うのでそこまで気にする必要はないと思いますが、私のように現地で事業をして現地から収入を得ているなら、米ドル・ユーロ・日本円などの主要通貨とのバランスを考慮する必要があります。
日本在住者でも日本円のみの資産であれば、円安による為替リスクがありますが、日本円は超長期的に見て円高傾向ですしインフレ率も低いので、他国通貨よりは心配ないのかなと思います。
為替リスクとは
為替リスクとは、為替相場の変動で資産価値に損失がでるリスクのことです。
もちろん為替相場の変動で利益になることもありますが、損失とは対になっているため、合わせて為替リスクとなります。
為替リスクの影響を受けるのは、主に輸出企業や商社などです。トヨタは、1円の円高になる毎に400億円損失になるときもある程です。(2016年5月の決算)
このような為替による損失を避けるために、輸出企業や商社などは「為替予約」というリスクヘッジを行っています。
為替予約
将来において外国通貨を購入するあるいは売却する価格(予約レート)、数量を現時点で契約する(予約する)取引をいいます。
個人資産で為替リスクを考える
トヨタのような巨大企業は、1円の円高で400億円という損失になるため為替予約でリスクヘッジを行っていますが、個人でも数千万円の資産があるならリスクヘッジをした方が良いでしょう。
特に私が居住するベトナムでは、対ドルで2017年から2018年の1年間で平均1.32%のドン安とベトナムドン安が続いています。(対日本円は、2.897%のドン安)
ベトナムは、為替相場管理を変動相場制ではなく、自国通貨の変動幅の範囲内で各国通貨が自由に取引される「管理フロート制」を採用しているので、大きく為替レートが乱高下することはありませんが、ベトナム中央銀行によって年々ベトナムドンは切り下げられています。
データソース currencystats247 – USD-VNDおよびVND-USDの為替レート
例えば、2017年に100,000 USD分のベトナムドンを保有していたなら、2018年には1.32%(1,320 USD)を年間で損してしまう計算です。ベトナム経済成長の背景からもドン高になることはほぼ無く年々ベトナムドン安が続いますから、何もしなければ自然と毎年資産が減っていくことになります。
インフレ率が高い国に居住している場合はインフレ率も考慮
インフレ率の高い国に居住しているのであれば、通貨安による資産減少の他に物価の上昇具合を指標とするインフレ率も考慮する必要があります。
為替のリスクヘッジにより個人資産を一定水準に保てても、居住している国のインフレ率が高ければ支出が増えてしまうからです。
ここベトナムでもインフレ率は、2017年 3.52%、2018年 3.8%で推移しています。単純にいえば、物価が毎年3%程上昇していることになります。
ベトナムは元々物価が安いので、日本と比べればそこまで資産に影響されるものではありませんが、毎年生活費は高くなってきています。
また、生活家電やブランド品などは関税の影響から日本よりも高額な商品が多いので、これらの商品を購入するときは生活費に大きく影響するでしょう。
ちなみにベトナムの大衆食であるフォーは、2015年15,000ドン(約75円)だったのに対し2018年は30,000ドン(約150円)になっています。
とは言っても、インフレ率3%は経済成長している新興国において適切であり、インフレ率10%以上の国に居住している方は、そもそもその国の通貨で資産をおいておかないでしょうから、そこまで気にしなくても良いのかなと思います。
先進国は、需要と供給のバランスが保てられるので、インフレ率は低下する傾向があります。
新興国は、供給よりも需要が大きいため、インフレ率は高くなる傾向があります。
一般的に、経済成長している国においてインフレ率は3%が適切と言われています。
個人でリスクヘッジはどうすべきなのか
では、為替リスクやインフレ率に対処するために個人資産のリスクヘッジはどうすべきなのか?というと、やはり居住国通貨以外の主要通貨(外貨)ベースで資産を持つということが基本となります。
ベトナムのように金利の高い国で定期預金にしておけば、為替リスク分の通貨安をカバーできますが、金利は下がることもありますし年々通貨安が続いていることと、外貨に両替するのが難しい国ですから得策とは言えません。
個人資産のリスクヘッジ案
考えられる現実的なリスクヘッジ案としては、外貨預金・外貨建て金融商品(保険含む)・外国為替取引の3つでしょう。その他については後述します。
- 外貨預金
- 外国為替取引
- 外貨建て債券などの金融商品へ投資
- その他
外貨預金
外貨預金は、海外在住者でも現地銀行や日本国内銀行(非居住者向けサービス)で手続きをすることができます。
外貨預金でリスクヘッジは、保有する通貨と同じ量を外貨で購入するやり方です。
例えば、ベトナムドンで100,000,000 vnd(約50万円)の資産があり、その時のドル換算の為替レートが 23,000d/$1 の場合は、4,348米ドルを購入して外貨預金として預けます。
100,000,000 vnd ÷ 23,000 vnd = $4,348
「ベトナムドン 1」 : 「米ドル 1」
(ベトナムドン 100,000,000 vnd : 米ドル $4,348)
ベトナムドンでは、100,000,000 vnd(約50万円)、米ドルでは、$4,348。
ベトナムドンから換算した同じ通貨量を同時に持っておくことで、ベトナムドン安になっても対米ドルが高くなるので為替リスクの影響を受けないことになります。
ベトナムでは外貨規制が厳しい背景から、リスクヘッジとして換金のしやすい安全資産の金(ゴールド)を定期的に購入する文化がありますが、米ドルと金は基本的に逆相関ですので、完全なリスクヘッジとはいえません。
外貨預金リスクヘッジのデメリット
外貨預金によるリスクヘッジの最大のデメリットは、資金が2倍必要になることでしょう。
もし、50万円分の通貨を持っているなら、外貨で更に50万円分が必要なので合計で100万円を用意しなければなりません。
また、銀行によっては為替レートが悪く更に手数料も取られることから、銀行の定期預金で預けた瞬間から損失になります。
そこでこれらのデメリットを解決できるのが、外国為替取引を利用する方法です。
外国為替取引(FX)
外国為替証拠金取引(FX)は、個人でも少ない金額で簡単に通貨を取引することができる金融商品です。
海外居住者でも口座開設できる日本のFX業者は2社あります。ただし、マイナンバー必須とはなるので、マイナンバーもないのであれば、海外のFX業者で口座開設します。
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外国為替証拠金取引を利用したリスクヘッジも基本的に外貨預金と同じ考えで、同等の通貨量を外貨で購入するやり方です。
今回は分かりやすくするために、日本円のリスクヘッジで米ドルを使うやり方を例として紹介します。
例えば、50万円の日本円資産があり、リスクヘッジするときのドル円の為替レートが1ドル110円だった場合は、4,545米ドル分を購入します。
500,000円 ÷ 110.00円 = $4,545
外国為替証拠金取引(FX)の場合は、「通貨ペア」という2通貨1セットのペアを取引する仕組みで、今回の例では「ドル/円」の通貨ペアを対象に取引します。
FXは、国内FX業者の場合は、1ロット=1万通貨単位。海外FX業者の場合は、1ロット=10万通貨単位で取引となるので、下記のロット数で「ドル/円」の通貨ペアを買い注文します。
$4,545 ÷ 10,000通貨 = 0.45ロット(国内FX業者の場合)
$4,545 ÷ 100,000通貨 = 0.05ロット(海外FX業者の場合)
日本円50万円資産のリスクヘッジを米ドルでするには、上記のロット数でドル円を買い注文するというやり方です。
ドル円を買い注文することで、円安ドル高で日本円で損失になった分、米ドルで利益になるので、為替リスクは理論上なくなることになります。
資金は2倍用意しなくてもいい
外貨預金では、リスクヘッジで外貨を購入するときに同じ量を購入するので資金が2倍必要でしたが、FXの場合は資金は1/25だけでOKです。
FXは、レバレッジという資金の最大25倍(国内FXの場合)を取引できる仕組みがあるため、$4,545分を用意しなくても1/25の$181.8(19,998円($181.8×110.00円))の資金だけで取引ができます。
更に海外FX業者の場合は、最大888倍のレバレッジを提供しているところもあるので、この場合は $4,545 ÷ 888 = $5.12 だけの資金で取引できる計算になります。
FXを利用したリスクヘッジのメリット(利点)
FXを利用したリスクヘッジの最大のメリットは、少ない資金で取引できることから資金を2倍用意せずにすむことです。
そして、外貨預金のように2円も実質レートと異なる悪条件で提示されることはなく、売りと買いの差であるスプレッドは約0.02円程で収まりますし、手数料は無料なのでコストを削減できます。
- スプレッドが低い(0.02円:2銭前後)
- 取引手数料無料
- 少ない資金で取引できる
- 取引のしやすさ
- 他の通貨へのリスクヘッジも簡単
その他、取引ツールで通貨ペアを選んでロット数の入力と売り買いのボタンをポチポチするだけで簡単に取引できる手軽さ、他の通貨へのリスクヘッジも簡単というのがFXを利用するメリットです。
FXを利用したリスクヘッジのデメリット
FXは大きなメリットもあるんですが、レバレッジを利用することでリスクも大きくなるのでデメリットも存在します。
- 実効レバレッジが高いと為替変動で損失が確定されてしまう
- 自動ロスカット発動しないと残高がマイナスになることもある
- 入出金が多少面倒
- 金利差(スワップポイント)で損することがある
FXを経験したことない人はピンとこないかもしれませんが、証拠金維持率というものが100%を割ってしまうと自動的に損失が確定される仕組み(ロスカット)があります。
前述した例では、$4,545 ÷ 888 = $5.12 を資金で用意すれば良いとのことでしたが、FX口座残高が$5.12だけだと証拠金維持率は100%となり、$5.12の2倍の$10.24が口座にあれば証拠金維持率は200%とる計算です。
必要証拠金(取引に必要な資金)に対して口座残高の資金に余裕がないと証拠金維持率は低くなり、ロスカットされるリスクが高まります。
外部サイト 証拠金とは
更に、外国為替市場開始時間に為替レートが大きく乖離すると、そもそもロスカットが発動されず口座残高がマイナスになるリスクもあります。
インターネットで時々、「FXで借金になった!」という人を見かけますが、証拠金維持率が低く、リスクが高い状態で取引していたことが主な原因です。
ただし、海外FX業者の「XMTrading」というFX業者の場合は、もし口座残高がマイナスになってしまっても業者側がマイナス分を補填してくれるサービスがあるので、借金になるということはありません。
FXを利用したリスクヘッジをする場合は、デメリットをきちんと理解し対処した上で行わないと、為替リスクのヘッジどころか余計に損失になった!ということになりかねないので、慎重に取引した方が良いでしょう。
外貨建ての金融商品への投資
通貨を利用したリスクヘッジ以外では、外貨建ての金融商品への投資があります。
日本国内の証券会社では、様々な外貨建ての金融商品がありますが、海外居住者は日本国内の証券会社で投資することはできませんので、現地の証券会社かプライベート・バンキングを利用することになります。
関連記事 海外在住者は日本株取引などの資産運用はできない理由と海外在住者の資産運用方法
リスクヘッジの基本的な考え方は、通貨を利用した方法と同じです。
50万円の現金があるなら、もう50万円を用意して外貨建て金融商品へ投資となります。
ただし、金融商品の種類は債券・保険・株・通貨などそれぞれの国によって細分化されているので、現金で居住国通貨を保持していなくても金融商品の中でうまくポートフォリオを組めば、その中ですべてリスクヘッジが可能になります。
ポートフォリオの組み方次第で、リスクヘッジとともに利回りを出せることが外貨建て金融商品のメリットといえますし、逆に下手なポートフォリオの組み方だと損をすることもデメリットといえます。
私はこれらの専門的な金融工学に詳しくはないので、自分自身で上手いポートフォリオを組めませんし、そもそも一つ一つの金融商品の特徴を調べる時間もありません。
そういう人たちのために、「プライベート・バンキング」による「プライベートバンカー」がいるわけです。流動資産1億円以上あれば、審査はありますがプライベートバンクで口座を作ることが可能になります。
参考書籍 プライベートバンクは、富裕層に何を教えているのか?――その投資法と思想の本質 Kindle版
その他
「外貨預金・FX・外貨建て金融商品」の3つ以外のリスクヘッジ方法としては、高級美術品や高級腕時計などがあります。
富裕層が高級美術品や高級腕時計を購入するのも、税金対策の他にリスクヘッジとしての目的があるためです。希少性の高いモノほど価値は落ちずに上がる傾向があるので、投資対象としても見ることができます。
ベトナムのように外貨両替や海外送金が難しい国の場合、高級腕時計を購入しておけば、あとで海外で売却して外貨を手にすることも簡単です。
他に不動産をリスクヘッジにと思った人もいるかもしれませんが、不動産は基本的に築年数と共に価値が目減りしていくものですし、地震や台風・竜巻などの自然災害の不確定要素もあるので含めていません。
もちろん、投資する国や状況によって異なるので、不動産でリスクヘッジをできるものもあります。
居住国の為替リスクに対するリスクヘッジの考えは人それぞれ
居住国の為替リスクにどう対処するべきか?ということを記載しましたが、この考えは国によって違いますし人それぞれだと思います。
「そんな為替リスクなんて個人資産で気にする必要ないよ」という人もいますし、「海外を転々とするから気にする」という人もいます。
しかし、どちらにしても資産や投資は必ずリスクが存在しますので、どれだけリスクを減らせるかというのは資産を守る上で重要な考えとなります。
為替ではありませんが、農産物を生産する農家は不作・豊作によって農作物の価格が大きく変動して損失になることもあるので、商品先物市場にてリスクヘッジをする農家もあります。
農家が種付をして収穫して販売するまで、商品先物で収穫時期の限月で売り注文をすることで、豊作により現物の価格が下落してしまっても、先物市場で利益がでているため、プラスマイナスゼロとなり現物の損失を相殺することができるのです。
このように、リスクヘッジに対する考え方は、農家から投資家まで一般的かつ基本的です。個人でも自分の資産と投資に対してどのようにヘッジをして、なるべく安全に資産を守りながら増やせるか?ということが大切だと思いますし、私自身も日々経験の中から学んでいる最中です。