プライベートバンクを使ってみた感想と失敗談
「プライベートバンクって何?」「いくらからプライベートバンク口座を作れる?」「海外のプライベートバンクを利用できる?」「どうやってプライベートバンク口座を開設するの?」「プライベートバンクでの資産運用って実際どうなの?」
実際にプライベートバンクを使ってみてどうなのか?という感想をこの記事でお伝えしようと思います。
プライベートバンクとは?
プライベートバンクとは、多額の資産を持つ富裕層向けに資産管理等を提供する金融機関のことです。
厳密に言うと、プライベートバンクとは、スイス発祥で経営に無限責任を負うプライベートバンカーが経営する伝統的な銀行です。PictetやLombard Odierなど13行のみが、スイスで正式にプライベートバンクとして名乗れます。
世界的に有名なUBSやクレディスイスなどの商業/投資銀行は、プライベート・バンキングと言われます。銀行や証券会社の中に富裕層向けプライベートバンク部門があり、日本では野村證券や三菱UFJモルガン・スタンレー証券などが提供しています。
スイスの伝統的なプライベートバンクは、元々ヨーロッパの貴族などの資産保全を業務とする財産管理をしていたので、リスクを取らず資産を守ることをメインにしています。
反対にプライベートバンキングは、特にシンガポールや香港などのアジアにおいては、リスクを取って資産運用を行う傾向があります。
それぞれ特徴が異なり、どちらにもメリット・デメリットがあります。
ここでは銀行名は伏せておきますが、私が使っているのも商業銀行のプライベートバンキングです。
一般的に「プライベートバンク」の言い方のほうが認知度が高いので、この記事でもプライベートバンキング含めプライベートバンクと記載しています。
いくらからプライベートバンクを開設できる?
スイスの伝統的なプライベートバンクの口座開設条件においては、一般的に最低1,000万ドル(約10億円)必要とされています。
プライベートバンキングの最低預け入れ条件は、最低100万ドル(約1億円)~1,000万ドル(約10億円)の範囲で、中央値は5億円です。
日本のプライベートバンクは、100万ドル(約1億円)から口座開設できるところが多いようです。私が使用しているシンガポールのプライベートバンクは、500万ドル(約5億円)からが条件です。日本人にも認知度が高いHSBCは1,000万ドル、UBSは300万ドルからです。
しかし、プライベートバンクに最低預け入れ金額を入金しても、あまり良いサービスを受けられません。
顧客の中には数十億、数百億、数千億円の資産を預けている人がいるので、最低預け入れ程度の金額ではプライベートバンクが提供するウェルス・マネジメントのサービスを活かせないことが多いですし、私自身それは経験で実感しています。
海外のプライベートバンクを作れる?
日本在住者は、基本的に日本国内のプライベートバンクを利用することになります。
地方銀行ではない大手銀行や大手証券会社へ数億円以上の金額を預けておくと、担当者から声がかかることが多いようです。
ただし、日本在住者は、日本の金融庁の制限や各種税制、金融商品取引法等の縛りがあり、世界の細かな金融商品を自由に選べません。海外で資産運用するよりも日本での資産運用は、パフォーマンスが悪くなることが多いという話も聞いたことがあります。
尚、日本在住でもビザなしで海外のプライベートバンクを作れますが(プライベートバンクではない一般口座は不可)、税金等の管理をしっかり行ってからではないと税務署から指摘されます。日本税務の他に海外税務を得意とする税理士等の専門家を入れないと、後々、追徴課税で大変なことになったという話はよく聞きます。
日本以外の海外居住の方は、居住国によって税制が異なります。
しかし、海外に居住していても、日本に住民票があったり日本国内に不動産や車などの資産があったりすると、日本居住と判断され日本の税制で課税されることがあるので注意が必要です。
どうやってプライベートバンク口座を開設するの?
プライベートバンク口座を開設するには、下記のいずれかの方法です。
- 銀行や証券会社からの招待
- 直接銀行へ問い合わせ
- 既に使っている知人友人からの紹介
- 会計事務所等からの紹介
- 仲介業者経由
銀行や証券会社からの招待
前述しましたが、大手の銀行や証券会社に数億円以上を預けていると、直接連絡がありプライベートバンクに招待されることがあります。
大手というのは、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、野村證券、大和証券などです。数億円以上あれば必ず声がかかるわけではなく、各金融機関の判断で招待しているようです。
直接銀行へ問い合わせ
プライベートバンクのサービスを提供する銀行へ直接問い合わせして、口座を開設することもできます。
ただし、外資系については、資産が数百万ドル(数億円)程度では、問い合わせてしても返信がなく相手にされません。最低でも1,000万ドル(約10億円)を預け入れるようであれば、ギリギリ返信がくるか来ないかの雰囲気です。(経験談です)
外資系プライベートバンクは、いきなり連絡してきた資産額の少ないであろう得体の知れない相手に、わざわざ時間を割いて連絡してくれるようなことはありません。もしかすると、相手の収入源は、犯罪等によるブラックなものかもしれません。それらKYC含めた精査をするやり取りも時間がかかってしまいます。
資産1,000万ドル(約10億円)以上のほとんどの富裕層は、知人の紹介でプライベートバンクを開設しているので、直接連絡されるのは銀行側も警戒します。
日本国内の銀行や証券会社であれば、返信がないようなことはないと思いますが、最低預け入れ金額程度では、あまり歓迎されないであろうと思います。
尚、日本国内でも外資系には、UBS、クレディスイス、ロンバーオディエなどの支店があります。
プライベートバンクを使っている知人友人からの紹介
信頼できる相手であれば、既にプライベートバンクを使っている人からの紹介が確実です。
実際の使用感や資産運用のパフォーマンス、サービス内容などを本人から聞けますし、口座開設に必要な書類等も確認でき、担当者も紹介してもらえます。
ただし、やはり信頼できる相手かどうかを見極めることは大切です。紹介料を取られることはありませんし、仲介という名の詐欺師も実在するので、充分に気をつけた方が良いです。
会計事務所等からの紹介
自身に法人がある場合は、会計事務所に相談して紹介してもらうようなこともできます。
もちろん、会計事務所がプライベートバンクと繋がりがある場合のみ可能ですが、私は周囲にプライベートバンクを使っている信頼できる相手もいなかったので、会計事務所経由で複数のプライベートバンクを紹介してもらいました。
法人とは関係なく会計事務所もお金にならない個人の相談ですし、会計事務所がプライベートバンク紹介のサービスを提供しているわけではないので、「もしご存知でしたら」という前置きでさらっと相談しました。
仲介業者経由
仲介業者経由による紹介は、一番危険です。
プライベートバンクは、一見さんお断りのようなところがあり、ほとんどを『紹介』から顧客を獲得しているので、プライベートバンクの紹介を業務とする仲介業者が存在します。
法人が実在しており、国に仲介業として登録している正規の仲介業者もありますが、中には架空の法人名でコンサルを名乗る詐欺師や個人で紹介する詐欺師が実在します。(私自身、過去にそういった詐欺師を実際見てきました)
詐欺師自身もプライベートバンク口座を所有していることもあり、相手を信頼させるために自身のプライベートバンク口座へログインして口座残高を見せたり、プライベートバンクの使用感などのアドバイスもしてくれ、色々親切にしてくれます。
詐欺師は、見返りを求めず色々親切にして、最初は相手を信頼させることに徹するのが特徴です。最初に非常に親切にされると、少し疑問に思っても信頼が崩れず、何かお願いされても「親切にされたから」ということで断りづらくなります。そういう小さいことが少しずつ積み重なり、気づかぬうちに詐欺の罠にはまってしまうものです。
プライベートバンクを使ってみた感想と失敗談
結論から言うと、商業銀行/投資銀行のプライベートバンク(プライベートバンキング)は、そこらへんの一般的な銀行や証券会社とあまり変わりないという印象です。
預け資産が3,000万ドル(約30億円)を超えると、受けられるサービスや対応に変化があるような話も聞きますが、私の資産額では特にメリットを感じられません。
利用前は「プライベートバンク」と聞くと、一般向け口座よりも優遇され、資産運用利回りも7%以上になることもあり、家族の資産相談、人生設計、節税などのアドバイスもあり、旅行や子供の留学の手配までも行ってくれる、富裕層に特化したコンシェルジュのような存在だと思っていましたが、実際はそうでもないということです。
節税の相談や人生設計の相談をしても「節税のサービスは提供していないし、人生設計を踏まえた利回りになるよう工夫はする、平均利回り7%になるようなポートフォリオは提案するが保証はしない」というような回答しかもらえません。
資産運用の方針
資産運用は、自分の判断で売買する裁量取引もできますが、銀行にポートフォリオを提案してもらい、そのポートフォリオ通りに売買を依頼する取引もできます。また、すべての運用を委託する一任勘定もお願いすることも可能です。
私の場合は、裁量取引する時間もないし面倒なので、銀行にポートフォリオの提案をお願いし、ポートフォリオに沿った売買を依頼する方針にしました。
ポートフォリオについては、最初にリスク許容度をヒアリングされ、銀行のモデルポートフォリオにそって金融商品を提案されます。
モデルポートフォリオとは、リスク許容度に応じて資産クラスの配分を調整した3段階のポートフォリオがあり、その人にあった資産クラスの投資配分をモデルに沿って投資・資産運用することを目指す指標です。
モデルポートフォリオに沿って投資したからといって、必ずしも想定される利回りが得られるわけではなく、投資している金融商品によって振れ幅(リスク)が大きくなることがあるので、モデルポートフォリオは単なる指標にすぎません。
同じ資産クラスでも金融商品によってリスク率とリターン率は異なるわけですから、当然の結果といえば当然です。
この金融商品によってリスク率とリターン率が異なる点も考慮して、ポートフォリオ全体のリスク・リターン率、シャープレシオを計算し、最も効率良い投資配分を導き出せる効率的フロンティアに沿ってポートフォリオを提案してくれるのを期待していたのですが、私の利用しているプライベートバンクでは「そういったサービスは提供していない」と断られてしまいました。
効率的フロンティアまで求めずとも、ポートフォリオ全体のリスク・リターン率くらいは計算して、担当者自身把握しておいて欲しいのですが、質問してもすぐに回答を得られるわけではなく、質問しないと計算すらしてくれません。
例えば、「米国株50%、日本株5%、新興国株5%、グローバル債券35%、仕組債5%・・・」のように、資産クラス別の配分に沿って、資産クラスに該当する金融商品をざっくりと割り当てられるだけです。
さらに、比較的新しいファンドを提案されることから、担当者のノルマがあって、売らされている感が何となく伝わってくるのも残念点でした。
ウェルス・マネジメント
ウェルス・マネジメントとは、富裕層向けの資産運用、不動産管理、投資管理などを適切に総合管理するサービスの総称です。
プライベートバンクが資産運用中心なのに対し、ウェルス・マネジメントでは、個人の保有する資産を守るために包括的にサポートするサービスです。
プライベートバンクとウェルス・マネジメントは部署が異なるものの、セットでサービスを利用できる金融機関がほとんどです。
私が利用している銀行でもウェルス・マネジメントは提供されており利用可能ですが、提供サービスは、トラスト(信託)の活用や株を保有する法人オーナーが死亡した際の保険商品等、それほど魅力がある内容ではありません。
これらのトラストや保険商品は、他行のウェルス・マネジメントも提供する基本中の基本サービスであり、他行と比べ特別な何かのサービスを受けられるものではないためです。
個人的には、「節税のために資産管理会社を作りましょう」のような、節税に特化したアドバイスを受けたかったのですが、今の時代こういうアドバイスは銀行としてもリスクがあり、表立ってサービスを提供できないのかもしれませんし、資産が3,000万ドル(約30億円)未満の顧客には儲からないのでやらないのかもしれません。(十数年前はHCBCで可能でした)
資産運用のパフォーマンス
こちらも結果を先に言うと2年間で「-12.5%」(2022年8月執筆時点)です。
「新型コロナウイルスやインフレの影響も受けながら-12.5%なら、まぁまぁ損失を抑えられて良い方じゃん」とプラスに捉える方もいるかもですが、金額にすれば億円単位の損失ですからね。
たらればですが、これなら現地通貨安とインフレを考慮しても私の居住するベトナム国内で5%の銀行定期預金で寝かしておいた方が良かった、と思ってしまいます。
シンガポールのプライベートバンクに共通して言えることらしいですが、比較的リスクを取って運用するポートフォリオになりがちのようです。提案してもらった私のポートフォリオも、中国市場ファンドやジャンク債が含まれ、ポートフォリオ全体の15%にリスク資産が含まれていました。(現在は損切り済みです。)
もちろん、その提案されたポートフォリオに承諾した私に責任があり、私の自業自得なのは承知しています。ですから、この反省を活かし、現代ポートフォリオ理論に基づき最適なポートフォリオを求められるようにExcelで管理表を作り対処するようにしました。
現在は、資産クラスごとのパフォーマンスが良い金融商品を見つけ出し、追加で入金した資金で毎月リバランスして投資しています。
(2022年10月追記:現在は追加入金分の裁量取引を停止し、ドルの定期預金に切り替えています。今後、積立投資を再開するかは様子見です。元々のPFは含み損のまま放置しています。もし今後S&P500が2300付近まで大暴落しても、私のPFの含み損は-30%くらいに抑えられる計算です。)
尚、Excelでどのように最適なポートフォリオを計算しているのかについては、「暴落に強くリターンを最大化する最適なポートフォリオの作り方」の記事で簡易的に解説しています。
売却させてもらえない?
ポートフォリオを提案してもらい、それに沿って注文をお願いするスタイルでは、途中売りたくても中々売却させてもらえません。
モデルポートフォリオに基づいて投資しているので、どれか一つの商品を売却してしまうとモデルポートフォリオが崩れてしまうことと、10年単位の長期投資でパフォーマンスを判断するので、短期間で売却するのは担当者から推奨されません。
確かにその通りであり、短期で売買を繰り返す短期投資よりも長期間ずっと保有し続ける長期投資の方がパフォーマンスが高くなるのは、過去データでも実証済みです。
ただ、2021年末においては、2022年以降米国の金融引き締め政策で一時的に利上げと株価が下落することは誰もが予想できたことであり、2021年末に一度すべての証券を現金化してもらえないか担当者に相談したことがありました。
しかし、このポートフォリオは長期投資であり、10年単位以上で保有することが推奨されているとして売却をしてもらえませんでした。
もし、2021年末ですべて現金化していたならば+9%/年の利回りでした。それが今では-12.5%です。。。
中々難しい判断なのかもしれませんが、「では、一度すべて現金化して、来年から毎月ドルコストで積み立てて買い直していきましょうか?」のような助言は担当者から欲しかったところです。
さらに、中国不動産の恒大集団の問題では、そろそろ中国政府は何かしらの対策を取るだろうというファンドマネージャーとプライベートバンカーの意見により、2021年末に中国市場ファンドの買い増しを推奨され買ったものの、その後、教育・IT系にまで引き締めや罰金が行われ中国市場全体の価格は下落。3月にはゼロコロナ政策でロックダウン、8月には台湾問題と続き下落幅が増しただけです。
それでも中国市場ファンドのファンドマネージャーはポジティブ意見に変わりないようでしたが…
担当者は売却に納得していない雰囲気を感じましたが、流石にもう信用できないので、中国市場含むファンドは、「後に市場が回復しても絶対に後悔しないので必ず売却させてもらう!」という強い意思ですべて損切りしました。(数十万ドルの損切りです)
今後について
私の居住するベトナムでは、海外の金融商品を購入できないので、引き続き現在のプライベートバンクを利用するつもりではいますが、また別にファミリーオフィスのサービスを提供する企業と契約し、資産を移動することも考えています。
近年、シンガポールでは、ファミリーオフィスに関する組織誘致に力を入れているという話も聞きます。ファミリーオフィスと聞くと、50億円以上ないと対象ではないというイメージがありますが、最近では1,000万ドル(約10億円)からでも利用できるところも増えてきているようです。
ファミリーオフィスを検討している理由としては、私個人だけではなく家族全体としての資産管理を包括的にお願いしたいためです。資産を積極的に増やすというよりも資産を減らさないように、守りを軸に資産管理をできればと考えています。
また、私も自身の本業やプライベートで毎日忙しいのに、裁量取引するために毎月リバランスして商品を見直して・・・なんて面倒くさいことをいつまでもしてられません。だからといってプライベートバンクへ任せてしてしまうと、今回のような失敗になりかねません。
ですから、なるべく資産管理に関する時間的・精神的・体力的な負担を無くしていきたいということで、ファミリーオフィスの利用を検討しています。
もし、「プライベートバンクを利用してるけど、そんなことないよ!もっとサービス良いよ」「ファミリーオフィス利用しているよ!」「この記事にかかれていること間違っているよ」という人がいれば、私のTwitterにでも気軽にコメントしてもらえればと思います。
私自身、失敗も含め経験しながら学んでいる最中なので、様々な意見をいただけると助かります。(Twitterの更新はしていませんが、コメント等あれば見ています。)